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日々の便り

 

デジタルの音、SONYの音。

CDのフォーマットが16bit 41kHzであることはそれなりに知られていると思います。ところが、デジタル音声入出力の周波数って、41kHzと44kHzがありますよね。これはどういうことなのでしょう。調べてみたところ、どうやら44kHzというのは日本電子機械工業会(EIAJ)で定められた民生用のPCMプロセッサの規格の名残のようです。

当時は14bit 44kHzが規格だったらしいのですが、1981年にSONYのPCM-F1が初めて16bitに対応し、以降は16bitが主流になって行ったようですね。スタジオ録音のデジタル化に一役買ったのも、SONYでした。1978年に発売されたPCM-1600は16bit 44kHzのPCMプロセッサで、これがスタジオのデジタル化を推し進めたのだそうです。

1970年代のレコードではまだ見た事はありませんが、1980年代のレコードには、しばしばこのPCM-1600が使用されています。時期の早いものだと殊更にデジタルマスタリングを謳ったものもありますが、80年代も後半になると、何も言わずともデジタルマスタリングをしているLPが結構あったのかも知れません。

本日ご紹介するこのLPは、1981年発売のもの。まだPCM-1600が珍しかったころだからでしょう、自慢げにPCM-1600の使用をジャケットに記していました。

LINK
タイトル  :Herbie Hancock Trio with Ron Carter + Tony Williams
アーティスト:Herbie Hancock

何の予備知識もなしに初めて聞いたとき、まず思ったのはピアノが端正な割に後ろに引っ込んでいて気持ち悪い録音である、ということ。そのくせベースは前にぐいぐい出てきて、でもあんまり生々しくないのですね、エレキベースかと思いました。
ところが説明を読んでみると、どうやらベースはアコースティックのようです。妙な事もあるものだとジャケット裏を見て、初めてどういうことか分かりました。

アナログ時代の古い録音に慣れてしまうと妙なこの録音ですが、しばらく聴いているうちに耳が馴染んで気にならなくなってきます。すると、後ろに引っ込んでいたピアノがそこそこハッキリ聴けるようになるから不思議なものですね。なんのことはない、要するにCD音質のレコードなのです、これは。

言うなれば、あえてレコードプレーヤを使ってCDを聴いているようなもので、今となっては無意味なのではないかと訝るところですけど、当時はまだCD普及前ですから、むしろ当然の事だったと言うべきでしょう。

慣れてしまえばほぼCD音質ですから、決して悪い音という訳ではありません。しかも当時のエンジニアは生楽器にとってのダイナミックレンジの重要性をちゃんと理解していたらしく、いつぞのDAAなレコードとは違って無闇な圧縮もかけておらず、ちゃんと表情豊かなピアノを聴く事ができます。ベースはエレキっぽいですけど。

Herbie Hancockの演奏は、Bud Powellのそれと比べると、同じジャズとは思えないくらいに端正で正確無比ですね。これと比べてしまうと、Budの演奏は酔っぱらっているみたいです。でもそこにまた彼独特の良さがあり、あちらが好きという方にはこの演奏はちょっと物足りないかも知れません。

パワーよりも響きの美しさを重視しているような印象のHerbieのピアノは、特に緻密で整然とした高速フレーズにその素晴らしさが現れる気がします。一曲目の"STABLE MATES"はかなり速い高音のフレーズがあるのですが、その響きの美しさと透明感には驚きました。まるで水のようなイメージのピアノ、とでも言いましょうか。

ちなみにこの曲、作曲はあのArt Blakey & Jazz Messengersでも活躍したB.Golsonです。つまり、Jazz Messengers版も聞いたことがある筈なのですが・・・これっぽっちも思い出さない程に別物でしたね。

でも、そう気付いてから改めて聴いてみると、なるほど確かに、あの素敵なテーマが冒頭に登場します。それにしたって、主役がサックスからピアノに置き換わるだけで、こんなにもあっさりするものでしょうか。もちろん演奏に熱量がないわけではないのですけれど、主題の存在感の薄さと言ったらありません(笑

端正なピアノの音にありがちなことですが、やっぱり火のようなピアノにはなれないのですね。強く叩くフレーズが度々現れる二曲目の"Dolphin Dance"は、どうもこう、線の細さを意識せずには居られません。これは録音故なのか、あるいは本人の特性なのでしょうか。

B面一曲目の"A Slight Smile"は、深夜の窓辺に月明かりを見るような雰囲気の、非常に静かで繊細な一曲。序盤は非常に小さい音量なので、思わずボリュームを3割増にしたほどです。ただ、この曲はあの妙に前に出るエレキっぽいベースも大人しいので、この音量にしても耳が痛くなる事はありません。

大きな音にして聞いてみると、強い音の表情まで繊細にコントロールされているのが良く分かりますね。さすがはHerbie Hancock、讃えられるだけのことはあります。とことん技巧派のピアニストなのですね、きっと。

続く"That Old Black Magic"は、転じて明るい一曲。なんというか、慣れ親しんだ古典的なジャズの朗らかさと熱っぽさを感じます。このアルバムで一番、「あ、いいかも」と思ったのはこの曲ですね。ただ同時にびっくりさせられたのは、Herbie HancockがBud Powellばりに歌い出した事。なんですか、もしかしてこれ、ジャズピアノのお作法なんでしょうか。なにもそんなところまで創始者の真似をしなくとも(笑

通して聴いてみてまず思うのは、Herbie Hancockのピアノは、本当に巧いなぁということ。一曲目の冒頭の印象があまり良くなかったので、どうなることかと思いましたけれど、聴き終えてみればなかなか良いアルバムだったのではないでしょうか、ベースが五月蝿いですけど。本当に、このベースさえもうちょっと控えめならと思います。

ドンシャリにしたがるのは、マスタリングもSONYのスタジオでやっているからなのでしょうかねぇ。ちなみに録音は東京の信濃町スタジオなのだとか。おやおや、よもや国内録音とは思いませんでした。

録音は前述の通りSONY PCM-1600なので、これは16bit 44kHzに量子化され、当然いろんな要素が削ぎ落とされたり、量子化ノイズが乗ったりした音であるという事になります。でも、その量子化されたデータそのものを安っぽいCDプレーヤやDACでアナログに戻すよりは、SONYのスタジオの確かな機器でアナログに戻してレコードにしてくれる方が、音は良さそうですよね。

なるほどいかにもCDっぽい音質ではありますけれど、恐らくCDを買って再生しても、この音にはならないのではないかな、と思います。以前はデジタルマスタのレコードなんて・・・と思っていましたが、まぁこれはこれでアリなのかもしれないと、考えを改めさせられる一枚でもありました。良いとまでは言いませんけれど。



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