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日々の便り

 

うみまち鉄道運行記

昨晩はうっかり寒い部屋で寝落ちをやらかしてしまいまして、御陰で今日は少し風邪気味です。一応1時間くらい寝たところで、あまりの寒さに目が覚めたのですが、時既に遅し。酷い腹痛に苛まれ、仕方なく熱いシャワーを浴び、部屋を暖めてから寝直したのですが、今度は寝坊して大ピンチに。しかし今朝は電車が定時運行だった御陰で、なんとか社バスに間に合う事ができました。

思い返してみると、年が明けてからこちら、ギリギリになるパターンが多過ぎますね。このところ早朝のダイヤがあまり乱れていないので助かっていますが、それだっていつまで続くかはあてになりません。時期によっては毎朝理由もなしに遅れてくることもあり、正直なところダイヤはあまりあてにならないのです。特に春頃は毎年酷いのですよね。

そういう恨みつらみが十数年分蓄積しているせいか、私は鉄道があまり好きではありません。更に言うと、実は鉄道ネタもあまり好きではないのですよ、なぜなら鉄道マニアって話が鬱陶しいので。これは軍事マニアもそうですね。好きな物について語りたくなるのは普通ですが、ものには限度というものがあります。彼等は文章の筋やテンポを乱してまで、本筋に絡まない蘊蓄を書いてしまう傾向が強いので、そこが鼻につくのですよ。

そんな訳で鉄道ネタ軍事ネタは忌避する傾向が強い私ですが、久しぶりに好きだと思える作品に出会いました。それがこちらの作品です。

○うみまち鉄道運行記 サンミア市のやさしい鉄道員たち
うみまち鉄道運行記 サンミア市のやさしい鉄道員たち (富士見L文庫)
著者:伊佐良紫築
表紙:戸部淑

表紙にかわいいイラストが掲げられているので、ラノベのような挿絵や口絵を期待される方もいらっしゃるかも知れませんが、作品中には一切イラストが登場しませんので悪しからず。まぁしかし、イラストレーターに戸部淑さんを起用されたのは大正解だと思いますね。仮に本文中にイラストがあったとしても、戸部先生の絵ならば作品を壊す事はないでしょうから。つまりは、そういう上品な雰囲気の作品であるということです。

舞台は、アメリカと良く似た社会構造および文化を持つ、架空の国。技術水準や文化水準は、第一次世界大戦後くらいでしょうか。主人公の少女二人はとある港湾都市に敷設された鉄道の運転士と車掌のコンビで、物語の大半の部分は鉄道の車両の上での出来事です。十代の少女がなんでそんな仕事をしているのか、という突っ込みはとりあえず措くとして、その内容をざっとご紹介しましょう。

第一話は「お芝居特急」。劇場行きの路線を担当する運転士のメグには、あるポリシーがありました。それは「お客さんを舞台の開演に遅刻させない事」。つまりは、多少無理してでもダイヤを守るということです。ところがある日、無賃乗車の少年が彼女達の電車に紛れ込んだ事で、大幅な遅延を余儀なくされます。それでも電車を遅らせたくないメグは、かつてその路線の名物だった特急の運転を再現することにしたのですが・・・。

このお話の良いところは、それそのものが完成された物語になっていると同時に、その後の物語への布石にもなっているというところですね。登場するあらゆるエピソードは全て伏線と考えて良いでしょう。といっても、別に謎掛けがあるわけではないので、肩に力を入れて読む必要はないのですが。

第二話は「復興型電車」。主人公のメグとシャーリー、そしてその親代わりのような存在であるマルコとの出会いのお話です。舞台はメグがまだ幼かった頃、舞台であるサンミア市が震災に襲われた直後の事。この物語でメグが鉄道に、もっと言うならばリトル・フェアリーに拘る理由が明かされます。

私がとりわけ気に入ったのは、話の冒頭に登場するボロ電車の「ロケットマン」。ちょい役の舞台装置とみせかけて、実はこの車両も運命的な存在であると同時に、この先の物語でも活躍するのですね。さりげなく登場させた脇役が地味に活躍してくれるのは、上手い物書きに共通する特徴でもあります。もっともそれに気付くのは以降のお話を読んでからなのですが、御陰でこの物語が一層好きになりました。

第三話は「御召し列車」。時間は短いですが、言ってしまえばローマの休日的な。主人公は第二話で登場したメグとシャーリーの兄貴分、レオンです。カーニバルの日、「ネーム・レス」の運転士を務めていたレオンは、昼食を買いに出た街の雑踏で、少し変わった雰囲気の少女に道を尋ねられます。電車に戻った彼は、少女と再会するのですが、彼女はとても焦った様子。なんでも大事な用事に遅れそうだ、というのですが・・・。

テンプレートなロマンスかと思いきや、結論はある程度常識的な範囲で、むしろ劇中の列車の運転ほどには無茶をしません。そもそも二人はそれほど深い知り合いでもないので、距離感としてもこれは妥当な結論でしょうね。しかしその控えめな結論込みで、この事件に関わった人達の魅力が余すところなく描かれています。例によって暴走列車ネタなのでスピード感も充分。よくあるロマンスの退屈感もなく、温かくて楽しいお話でした。

第四話は「現金輸送列車」。つまりギャングに襲われる話なのですが、これはちょっと蛇足だったかなという感じが否めません。マルコの経歴などなど、後付け感が否めないのですよね。それと、銃の扱いやら警備員のことやら、色々と無理なところが多いのです。あえて良かったところをひとつ挙げるなら、序盤でちょっと意地悪に描かれたライバル社の「ストラト・ライナー」が実は正義のヒーローだったこと、くらいでしょうか。

結びの「普通電車」は各話の後日談をまとめて。とりたてて事件のない日の主人公達を描きつつ、全てのお話の後日談をさらりと一本にまとめた手腕はさすがです。とはいえ、第一話のあの子がもう入社しているって、どうなんでしょうね。鉄道会社ってそんなに簡単に職員になれたものなんでしょうか、あの当時は。これはさすがに無理し過ぎではと思うのですけれど。

雰囲気は、ライトノベルというよりは児童文学といったところ。文章は読み易く、登場する人物はそれぞれにちゃんと個性があって、しかも魅力的です。その「人物」には車両まで含まれているところが、この作者さんの上手いところですね。電車にはマイナスイメージしかない私でさえ、「フェアリー」や「ロケットマン」、名無しの権兵衛あらため「ロイヤル・コーチ」など、各車両に愛着を感じてしまったのには驚きました。

よくあるラノベ的な無理なキャラ付けや変な話し方は一切ありませんし、主人公達が美少女だったりすることもありません。そういうありがちな付加価値ではなく、きちんと人物を描く事で読み手を惹き付けるこの文章力はさすがだと思います。そういう意味では、文芸にかなり近いライトノベルだと言えるでしょう。上品で暖かくて心意気で、読後感がとても心地良い、素敵な作品だったと思います。できれば続編が読みたいですね。

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