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日々の便り

 

ばかのうた

このところ鳥の話ばかりでしたので、今日は久しぶりに音楽のお話を。実は先日、珍しくJPOPのレコードを購入したのです。といっても、昔のレコードではなく、現役のアーティストが、ごく近年リリースしたアルバムのLPなのですね。そのレコードというのが、こちら。アルバムを知るきっかけになったのは、とあるテレビ番組でした。番組の終盤で歌われた曲を聴いて「ピン」ときまして、ほぼ衝動買いでした。

ばかのうた [Analog]
タイトル  :ばかのうた
アーティスト:星野 源

一曲目の「ばらばら」は、歌詞がとても秀逸な一曲。「世界は一つじゃない」「気が合うと見せかけて、重なり合っているだけ」・・・そんな身も蓋もない、でも善人ぶった人達は決して認めたがらない本当の事を、さらりと歌います。実はこのアルバムを買うきっかけになったのが、この曲でした。

現実を虚飾無く鋭く抉った歌詞なのですけれど、それでいて別に投げやりな訳でも、絶望している訳でもありません。むしろ、そういう現実を認めた上で、ばらばらのまま一緒に行こう。そういう前向きな歌なのです。それは手垢まみれで薄っぺらい「良い歌詞」などとは根本的に違う、共存という事柄の本質を突いた表現と言えるでしょう。こんな歌詞を書く人が居るのかと、初めて聞いた時は目を丸くしたものです。

二曲目の「グー」は、アットホームな暖かい歌。でもやっぱり、奇麗事はありません。決して美しい訳でも素晴らしい訳でもないのに、一番ホッとする場所、一番ホッとする人。そういうものの大切さを実感として語る歌詞、とでも言いましょうか。曲調はとても明るくて楽しげで、まるで子供が大好きなお父さんやお母さんについて話しているかのような印象でした。

三曲目の「キッチン」は、別れの喪失感を歌った曲。曲調は暖かく穏やかながら、胸の底にじわりと来るものがあります。次の「茶碗」は極めて珍しいお年寄りの歌。老夫婦が若かりし頃を振り返り、そして今の年老いたパートナーを大切に思う気持ちを歌います。曲調はなんだかウキウキと楽しげなのですが、内容の方は枯れ切っている感じですね。

この曲を覚えていると、七曲目の「老夫婦」は胸にぎゅっときます。というのも、この曲は独りになってしまったおじいさんが、おばあさんが居た頃を懐かしむ曲なので。やさしいギターと、やや掠れ気味の声で始まる序盤の演出も、歌詞の切なさをさらに引き立てていますね。中盤以降は伴奏が入って賑やかになりますが、フレーズとしては明るい筈のメロディに、不思議と夕暮れ時のような切ないイメージを連想させられます。

A面ラストの「くせのうた」は恐らく、知ろうとする事の大切さを歌った曲でしょう。一見して似たような人や記憶、そして人生。でもそれを同じだと決めつけず、知りたいと思うのに必要なのは「全部違うと知ること」。これも至言ですね。この曲は、一曲目の「ばらばら」とセットになる曲だと言って良いのではないでしょうか。結局、一曲目の希望を叶えるために必要なのは、この八曲目の歌詞にあることなのですから。

老いと人生が満載だったA面に対して、B面は子供の世界。あるいは童心の世界とでも言いましょうか。「兄妹」は夢の中にしか存在しない兄妹のお話。「生まれてないし」のところにちょっと不吉なものを感じますが、まさか「生まれて来る筈だった」兄や妹のお話ではありませんよね。やけに明るい曲調なのも、この方のパターンからして内容が重い場合に多い傾向ですが。

次の「子供」は、少し気怠げなゆったりとしたバラード。これはきっと若い夫婦ないしカップルの、何の予定もない休日の光景を歌ったものではないかと思います。気怠い中に漂う安心感のようなものが、なんだか居心地の良い雰囲気を作ってくれていて、聴いていると肩の力が抜けるような曲でした。

インストを挟んで、B面四曲目は、なんとも謎な「穴を掘る」。ほがらかに楽しく、良く晴れた暖かい冬の休日の青い空が似合いそうな曲調で、謎な歌詞を歌います。タイトル通り「穴を掘る」話なのですけれど、どうもこれは文字通りの穴掘りのことではないようですね。歌詞に意味があるならば、ラストの「気を強く持てば」という一言が謎を解く鍵になりそうです。

「ただいま」は懐かしい場所に帰る歌。海っぽい雰囲気のイントロだなと思ったら、序盤から歌詞にも海が登場します。夏の夕暮れ時の海のような印象の曲でした。続いては「ひらめき」。これはタイトル通り、ひらめきを色々な言葉で表した歌でしょう。曲はゆったりと穏やかで、ちょっとのんびりとしていて。居眠りしている人を眺めているような感じの曲、といえば伝わるでしょうか。

B面ラストは表題曲の「ばかのうた」。雰囲気は「みんなのうた」という感じで、ゆったりと可愛い三拍子。でも歌詞は意味深ですね。揺れたり泥濘んだりする土を心に見立て、「アスファルトは要らない」と歌います。つまりよく聞く絶対とか永遠とか、そんな奇麗事に縋らないで、揺れ続ける馬鹿な自分の心を認めた上で、互いにそれを受け入れようという意味なのかな、と。

一貫しているのは、「売れる歌詞」を一切用いないということ。平易な言葉で、しかも容易に歌の世界を思い描けるように書かれた歌詞の力は、まさに特筆すべき点だと思います。特に「ばらばら」には痛く感じ入りました。歌詞と言えばお約束なのは、「世界は一つ」だの「ぼくらは一つ」だの分かり合うだの。しかし、判で押したように無思考にリピートされる中身のない偽善は、耳あたりの良さで人を欺く猛毒でしかありません。

でもこの方は、そういう奇麗な汚物を歌詞に含めることがないのですね。人は結局ばらばらで、分かり合って一つになる事なんてできません。でも、譲り合って、重なり合うところを作ることは出来る。そのためにはまず、自分たちは違うのだということを認めなければならない。そういう現実を、しかし説教臭くせずにさりげなく提示するその手法には脱帽しました。

曲調はだいたいほのぼの系であまり変化がないのですが、しかし、だからといって飽きるようなこともありません。歌もあまり上手いとは思いませんが、しかし下手でもありません。日本人歌手ならこんなものではないでしょうか。あとはこの独特なマットな感触の歌声が肌に合うかどうかですが、私は好きですね。特に「老夫婦」では、この声の魅力が存分に引き出されていると思います。

暖かくてアコースティックな曲に載せて歌う、決して格好良くはない、とても現実的な人生の歌。薄っぺらい奇麗事は嫌いだけれど、だからといって思春期や反抗期をぶり返すなど馬鹿馬鹿し過ぎる。そんな風に現実的に世界を見ている大人には、ぴったりのアルバムだと思います。


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