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日々の便り

 

Heavy Weather

台風は各地で猛威を振るっているようですが、今日の東京は朝方こそ荒れたものの、午後からは時折晴れ間さえ覗くほどで、不思議な静けさでした。
これは所謂、嵐の前の静けさという奴でしょうか。風は穏やかなのですが、ねっとりと肌に絡み付く猛烈な湿度が、空気に妙な質量感を与えています。

遠くで低く轟いているのは果たして風の音か、あるいは高速道路の騒音でしょうか。こう長い事なり続けているところを見ると、あるいは後者かも知れませんね。そういえば、雨の前には遠くの音が聞こえるものだともいいますし。

こんな天気ですので、今日は一日中、家の中で過ごしてしまいました。やっていた事と言えば、専ら整理整頓・・・あとは、これでもかと言わんばかりに音楽をかけまくっていました。今日ほどオーディオが活躍した日も、なかなかないでしょう。というわけで、今晩もまた少し、音楽の話を。

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タイトル  :Heavy Weather
アーティスト:Weather Report

先日は私の苦手なWeather Reportを紹介してしまったので、今度は私の大好きなWeather Reportを。ちなみに、なぜこんなタイトルなのかは謎です。別にそういう名前の曲が含まれているわけではありませんし、嵐を彷彿とさせるようなコンセプトのアルバムでもないのですよね。

このアルバムを私に紹介してくれたのは、いわばベースの先輩とも言える方。その頃の私はギターではなく、ベースを弾いていたのです。スタイルはツーフィンガーで、中古で購入したベースを毎日のように弾いていました。あの頃は父も失業していませんでしたし、祖母の認知症もまだ軽かったので、私にも自由時間があったのですよね。

このアルバムを紹介された理由はもちろん、ジャコ・パストリアスのベース。とにかく凄いからというので聴いてみた訳ですが、なるほど、実際凄まじい技術です。お手本にするにはさすがにちょっと遠過ぎる存在でしたね。
しかしそれ以上に感銘を受けたのは、このアルバムの・・・こういう大袈裟な言い方はあまり好まないのですが・・・所謂、音楽性という奴で。

まず一曲目のBirdland、イントロの印象的な低音フレーズの繰り返しから管楽器が加わるところまでで、ころりとやられました。キャッチーで印象的で、それでいてPOPのような短期決戦型の音楽ではないのです。ゆっくりと展開して、独特の世界を描くのですね。

特にJPOPの世界では、キャッチーであるという事は即ち、一種の短い繰り返しの形式に縛り付けられたパターンの音楽である事を意味します。一例を挙げるならばA-B-サビの形式ですね。種類は色々あるのですが、いずれにしてもキャッチーである事と自由である事は両立しない。それが、POPSの世界です。

ところが、この音楽は違う。キャッチーでありながらこれほど自由で、しかもバリエーションの豊富なフレーズを投入して、あれこれ手を替え品を替え再提示を行って、それでもなお流れは途切れず停滞せず。それはまるで、シナリオのない劇を面白く見せるかのような。

これと比べると、言って見ればJPOPは四コマ漫画のようなものです。四コマの世界に居た人間が突然こんなに広い世界を見たのですから、その衝撃はご想像頂けるのではないかと。
このアルバムですっかりWeather Reportにはまってしまった私は、アルバムを何枚も買ったものでした。

お勧めなのはやはり一曲目の"Birdland"、これは是非どなたにも一度は聴いて頂きたい名曲です。二曲目の"A Remark You Made"もメロディアスで聴き易い一曲ですね。
一方、意外性があって面白いのは"Rumba Mama"。たった2分の短い曲ですが、これは多分民族音楽ですよね。これを聴いて脳裏に浮かぶのはアボリジニなのですが、少なくともその種の民族音楽のテイストを取り入れたか、それそのものではないかと思います。

他の曲はいかにもフュージョン然としたものが多いですが、全体的にメロディがハッキリしていますし、長過ぎる曲もなく、フュージョンの初心者でも聴き易いのではないでしょうか。Weather Reportを初めて聴くなら、私もまずこのアルバムをお勧めしたいですね。
そして、もし機会があったら、是非ともSweetnighterとの聴き比べもやってみて頂きたいところです。きっと、明確なノリの違いに気付かれるでしょう。

この楽曲の躍動感の違いを生み出す主要な要素が、ベースラインなのだろうと思います。やはり私はジャコのベースが好きですね。これほど圧倒的なまでに動き回るのに、それでいて決して不自然ではない。それどころか、すっと染み込むように馴染むのです。

日本には、彼は技術をひけらかし過ぎだとか煩いなんていう人も多いのですが、そうではありません。確かに主張はしていますが、彼のベースは確かに曲を支え、そして作っています。このベースでなければ、この演奏は有り得ないのです。

まぁ確かにかなり奔放なベースですので、四コマ劇場の枠内には納められそうもありませんけれどね。これを四コマの世界で理解しようというのなら、無理もありましょう。でも、だからこそです。たまには枠から飛び出してみるのも良いのではないでしょうか。
決して縛られず、それでいて破綻しないこの自由さ。これもまた紛れもない音楽の魅力なのでは、と。私はそう信じて疑わないのです。

Sweetnighter

一度嫌ったものは頑として受け入れず、頭ごなしに全否定する人は多いですね。人の好き嫌いは第一印象が全てだなどと、しばしば言われているほどです。
一方で、「嫌い」を克服する人も居ます。私はどうやら後者のようで、食べ物にしても音楽にしても、苦手だったはずのものがある日突然大丈夫になる、ということは珍しくありません。

例えば牡蠣とか、ゴーヤとか。牛乳だけは相変わらず克服出来ないのですけど。あと、女性ボーカルが苦手なのも相変わらずですねぇ。

ところで、なぜそんな話をしているのかと言いますと・・・先日ご紹介した"LIKE SOMEONE IN LOVE"を改めて聴いたら、なんだか「悪くない」から「良い」に評価が上がっておりまして。慣れたのでしょうか。慣れたというよりはむしろ、聴き方に気がついたという事なのではないかと思うのですけど。

あるいは、ウェイン・ショーターの作品というのは、じわじわと魅力が沁みて来るタイプの作品なのかも知れません。何度か聴いてはじめて良さが分かるものもありますよね。
でも、それならばです。もしかすると、苦手としていたWEATHER REPORTのアルバムも、今ならば聴けるのではないでしょうか。

というわけで、以前は途中で放り出してしまったこのアルバムを、再び聴いてみる事にしたのです。

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タイトル  :Sweetnighter
アーティスト:WEATHER REPORT

ウェザーリポートの初期の頃の作品。ベースが初代メンバーのミロスラフ・ヴィトウスなので、1974以前の録音である事は間違いありません。シンセを多用したサウンドは、ジャズと言うよりはフュージョンと言った方が良いのではないでしょうか。CDのジャンル分けは、ジャズになっていましたけれど。

サウンドの傾向はジャコ加入後とあまり変わりないと思うのですが、リズムの取り方が随分規則的というか、遊びが少ないように思えます。とはいっても劇的な変化やノリの良い崩しがないというだけで、実は結構細かい変化に富んでいるのですよね。

一曲目は"Boogie Woogie Waltz"ですが、3拍子でありながらワルツらしい加速感がなく、どちらかというと時計の拍動を聴いているかのような気分になる、不思議な曲です。
初心者にはこれがいきなり、ハードルが高いのですよね。なにしろ13分もある曲で、しかもPOPSのような構成ではないので、節回しの起承転結を全然掴めません。

各パートが少しずつ変化して行く様に気がつかないと、これは本当に退屈な曲です。しかし、互いに調和のとれた仕方で変化して行く各パートの隅々にまで気を配って聞くと、実は単調どころが実に情報量の多い曲なのです。
以前はこの曲でいきなり躓いたものですが、大丈夫、今なら抵抗なく聴けますね。

一方で、この種の音楽に慣れていなくても心地良く聴けそうなのは、まず三曲目の"Adios"でしょう。長さも3分と丁度良いですし、清冽で幻想的な曲調は、なかなか心地良いものです。冒頭のイメージは、まるで雪解けのような、とでもいいましょうか。
曲が進むにつれて、闇夜と蛍のような幻想的な風景が浮かんできます。私は、ディズニーの「ファンタジア」で、禿げ山の一夜の後に登場した、あの灯火の行列を少し思い出しました。

五曲目の"Will"は、森の静寂、というイメージ。木々の奥の深い闇に一筋の木漏れ日が射しているかのような、静けさと厳かさと、同時に暖かさを兼ね備えた曲です。
六曲目は打って変わってSF的に。序盤はちょっと奇妙な雰囲気ですが、次第に変化して、聴き易いメロディが登場するようになってきます。まるで、奇妙な夢の世界から現実へと引き戻されていくかのような感じですね。

全体を通して聴いてみましたが、どうやら今なら普通に聴けるようです。ただ、特にこの曲をもう一度聴きたいというような作品はありませんでした。

聴き方次第ではほとんど自己主張のない曲が多いので、読書のBGMや作業用BGMにするにも良いでしょう。極端な刺激がないので、気を散らされる事がありません。それでいて、ふと注意を向けてみると、実は結構凝っているのですよね。

絵に喩えるなら、JPOPのようなコテコテのメロディラインで聴かせる曲は線画ないし漫画、それに対してこれは線を用いない油絵や点描、といった感じでしょうか。
パッと見で分かる情報は少ないのに、実はかなりの情報量を含んでいて、全体で一つのものを描き出すようなところが似ていると思うのです。

もしキャッチーなメロディに疲れたなら、たまにはこういう音楽を聴いてみるのも良いかも知れません。良い気分転換になるでしょうし、なにより違う世界を見る事で、良い勉強にもなると思います。

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