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日々の便り

 

New Year's Concert 2019

些かならず遅刻しましたが、今年もよろしくお願いします。本来ならば年明け早々に何か書こうと思ってはいたのですが、正月明けからいきなり体調を崩しまして。風邪から気管支炎になり、そのままずるずると一ヶ月引きずって今日まで。いまだオカリナの演奏すらまともにできない有様で、そろそろ登山欠乏症の禁断症状が出そうな今日この頃。そんな鬱々とした年明けの一ヶ月でしたが、そんな私に丁度良いものが届きました。



今年もリアルタイムで楽しませていただきましたが、いやいや毎年ながら素晴らしい演奏でしたね。2017年のニューイヤーほどのインパクトはありませんでしたが、堅実さと新鮮さがほどよくバランスのとれた、実に飽きのこない素晴らしいコンサートでした。どのくらい気に入ったかといいますと、その勢いでティーレマンのベートーベン全集をポチったくらいでして・・・。そちらについては、また次の機会にでも。

さて、そんな素晴らしいニューイヤーコンサートのCD、わくわくしつつ一曲目を再生してまず思うのは、「音が良くなったなぁ」ということです。かつてはSONY + クラシックって最低最悪の取り合わせで、あの頃の音を一言で言うなら「お風呂場クラシック」とでも言いましょうか。DTM作品ばりにメタメタに音を加工してしまうため、演奏が台無しになってしまっていたのですけれど・・・ここ数年のSONYのCDからは、かつての悪癖がほとんど感じられません。

当然音は加工しているのですけれども、その加工がかなりナチュラルな印象になっているのですね。録音の時点で自然な音なんてあり得ない上に、再生環境がさらに音を歪めるわけで、オーディオで自然な音なんてものはあり得ないのですけれど、それでも「自然っぽく」聞かせてくれるこの編集技術には、目を見張るものがあります。

部屋にふわっと広がる軽やかな木管の高音、体を打つような力強い金管の中音、引き締まった打楽器、そしてウィーンフィルならではのつやっつやの弦楽器。一曲目の「シェーンフェルト行進曲」から、その素晴らしい音を堪能させてくれます。本当、嘘みたいにクリアですね。ボリームを目いっぱい上げているのに音がダマにならない。故に、この一曲目のわくわく感がダイレクトに伝わります。

躍動的で鮮烈な若々しさを魅せた2017年、一転してコテコテの保守だった2018年ときて、今年の演奏はその中間という印象。勢いが良すぎてぶっ飛んでしまうようなこともなく、あくまでバランスの良さは維持した上で、やや若々しい印象にまとまっていると言いますか。

一曲目は厚みと迫力をを感じる冒頭からふわっと軽やかなマーチへ。スピードやパワーではなく、ぐっと入った力をふっと抜くタイミングと加減の妙が、曲に心地よい躍動感を与えているように感じます。これはこの指揮者の特徴なのでしょう、いわゆる「お馴染みの曲」でも、アクセントを入れる位置や加減が独特なので、だいぶ印象が違って聞こえるのです。まぁ、これは評価の分かれるところなのでしょうけれど、少なくとも私は好きですね。

曲順と選曲もまた秀逸。これも近年の特徴ですが、ひと頃の指揮者のように似たようなポルカを連打して退屈させるようなことは、決してありません。そしてやはり注目せざるを得ないのは、今年が初の曲たちです。曲としてはそんなに好みではないのですが、4曲めの特急ポルカは良い選択だったと思います。

ポルカとワルツはニューイヤーの花形であり定番ですから外せません。しかし一方で、あまりに定番化しすぎてマンネリ感があるのもまた事実。そんなポルカの枠に、定番と同じ特徴を残しつつ新しさをも同時に感じさせるこの曲を入れてきたのは、上手いなぁと思いました。

個人的なお気に入りは、まずは第二部一曲め、トラック7の喜歌劇「ジプシー男爵」序曲です。毎年、前半後半の一曲めはつかみの一曲ということもあり、印象深い曲になることが多いのですよね。この曲は曲自体が好きであることに加え、今年の起伏に富んだ、それでいて実に滑らかで上品にまとまった演奏に惚れ込みました。フォルテよりピアノにゾクゾクするタイプの演奏ですね、これは。

今年初登場シリーズのひとつ、「エヴァ・ワルツ」もオススメの一曲。騎士物語の歌劇のための曲のようで、冒頭はなんとも勇壮で壮大な印象です。よもやここから憂いを帯びた美しいワルツへと繋がるなど、誰が予想できましょう。新鮮な驚きとともに、艶やかなワルツを楽しむことができます。

もうひとつの初登場曲、「幕間のワルツ」は、これまた独特なキャラクターを持つ作品。私は「目次」または「表紙」という印象を受けました。特にBGMっぽい印象の曲とでも言いましょうか。曲と一緒に何かの解説の動画でも流したら合いそうな気が。なるほど「幕間」というテーマに実によく合致した作品だと思います。

最後に、毎年指揮者の違いがもっとも現れる、結びの二曲について。まずドナウですが、美しさが際立つ演奏だったような気がします。保守的な指揮者がよくやるスロースタートですが、それでいて嫌らしいしつこさは感じさせず、リズムに乗ってからはティーレマンならではのアクセントの妙で軽やかに。テンポを結構大きく揺らすタイプの演奏なのに、こんなにも全体の印象は軽やかでスムーズになるものなのだなと感心させられました。

そして締めのラデツキー、ティーレマンは聴衆を細かく指揮するタイプのようですね。手拍子が入る部分はだいぶ少なめに抑えられていますが、それでいてアクセントとして丁度良い塩梅にうまくコントロールされています。全体的に「お祭り騒ぎ」的な楽しさはありませんが、逆に聴衆との一体感を感じさせる、楽しい演奏でした。

一言でまとめると、つまりクリスティアン・ティーレマンとは、「巧い」指揮者なのだなと。楽しいのに上品という、なかなか見られないバランスのニューイヤーコンサートでした。これは2017年のとはまた違った意味で、何度でも聴けそうなアルバムです。

BUTTER CORN LADY再び

昨晩から、東京は雨。湿度は80%を超え、これ以上ないくらいにジメジメしています。こんな日は、さすがに私も遠出をしたいとは思えませんね。という訳で、今朝は早くからコーヒーを淹れ、久々に、本当に久々にレコードを引っ張り出して、朝から優雅な休日ごっこをしています。

昨年後半からだいぶ忙しく、レコードを聴くのも恐らく半年ぶり以上になるのではないかと思いますが、しかし、やはりレコードは良いものです。久々にアンプの接続を切り替え、ターンテーブルを起動し、ドキドキしながら恐る恐る針を落として・・・そして飛び出した鮮烈な音に、のっけからすっかり魅了されてしまいました。

「音質」を数値で語るなら、アナログレコードはハイレゾの足下にも及びません。そもそもダイナミックレンジが違うし、分解能が違うし、何より再生の段階での物理的な劣化が一切ない。レコードの音はダイナミックレンジは狭いし、混濁しているし、ターンテーブルの速度は物理的に揺らぐので、音程もテンポも不確かです。でも、なのに。この「ハッキリ」聞こえる音は、ぶわりと伝わるこの熱量のようなものは、一体何なのでしょうね。

気が遠くなる程高価なオーディオセットを理想的なスタジオに置いて、最高の再生装置でデジタル音源を再生すれば、きっとこんなチープな環境で、半ば自作品と化したオーディオで再生したアナログ音源など圧倒出来る音になるのでしょうけれど、そんな比較に意味はありません。レコードの凄いところは、今この環境で圧倒される音を出してくれるということ、その一点に尽きます。

ところで、実は昨年フォノイコライザを導入しまして、アナログ環境がかなり向上しました。その結果、これまで「耳が痛い」と感じていたレコードを聴いても耳が痛くなる事がなくなったのみならず、これまで音が悪いと思っていたレコードが軒並み「高音質」に化けてしまったのです。これは本当に驚きました。そんな訳で、以来頻繁に聴いている盤があるのですが・・・それがこちら、アートブレイキーの「Butter Corn Lady」です。

LINK
タイトル  :BUTTERCORN LADY
アーティスト:Art Blakey & New Jazz Messengers

ペラッペラのいかにも音質に期待出来なそうなビニールで、まぁ音質は良いとはいえないのですが、しかし。何度聴いてもこれが良いのですよね。具体的に何が良いのかと言われると困るのですけれど、何でしょう、聴いているとワクワクするのです。

一曲目の表題曲、「Butter Corn Lady」のキャッチーさは、思わず口ずさんでしまうほどですし、どこか少し調子っぱずれな感じのトランペットがまた良い。キース・ジャレットのピアノは、以前聴いた時はそれほど良いと思わなかったのですけれど、それはフォノイコライザが悪かったせい。少々まともな再生環境に換えてみれば、びっくりするほど表情豊かで、楽しい曲をさらに楽しくしてくれます。

一曲目の冒頭から「あぁ、いいなぁ」と。楽しい気分は三曲目の「THE THEME」で最高潮に。この曲は色々な盤に収められているのですけれど、この盤のは楽しさが際立っていますね。冒頭の賑やかな雰囲気がもう、好きで好きで。

それともう一つ、言わずにはいられない事が。このレコード、聴衆の歓声や拍手の入るタイミングが絶妙なのです。多分「分かっている」聴衆なのでしょう。歌舞伎などでも、観客が屋号を叫んだりするのにはタイミングがあり、良く訓練された(笑)客でないとタイミングを掴むのが難しいと言いますが、それはJAZZも同じ事。

大興奮の熱狂ではなく、いかにも小規模のライブ的なまばらな拍手や歓声が、かえって録音の生々しさを際立たせています。演奏者との距離の近さを感じさせるとでも言いましょうか、これがまた魅力的なのです。

ところでこのレコード、アートブレイキーの人気が低迷して、メンバーもどんどん入れ替わっていた時代のものだそうで。その関係でか、この盤を評価する声はあまり聴きませんし、高音質のリバイバル盤がリリースされたりという事もないようです。専門家的な評価基準からすると、あまり価値のないレコードという事になるのでしょうか。

でも、この若々しくて勢いに溢れていて、思わず肩を揺らしてリズムを取りたくなるような雰囲気は、ただ高度なだけの演奏にはなかなかないものだと思うのですよ。そして、ジャズやロックの一番の魅力は、まさにこれなのではないかなと。だからこそ、ライブ盤に勝るものはないと言われるのではないでしょうか。

願わくはいつかこのレコードが再評価されて、高音質版がリリースされますように。まぁ無理なのでしょうけれど・・・いっそ、無くならないうちにもう一枚確保しておいた方が良いかも知れませんねぇ。


NEW YEAR'S CONCERT 2017

○NEW YEAR'S CONCERT 2017
ニューイヤー・コンサート2017

今日は久々に、音楽の話題を少々。いつも新年の楽しみの一つとして欠かさず中継を見ているニューイヤーコンサート。数年前までは必ずCDも購入していたのですが、ここ数年はCDやレコードを買わずにいました。というのも、内容があまりにパターン化しているように感じてしまって、ちょっと食傷気味になってしまったのですよね。あとは、演奏。地デジのせいもあるのでしょうけれど、どうもこのところ、いまひとつこう、熱を感じなかったもので。

しかし、今年のニューイヤー・コンサートは、ひと味もふた味も違っていました。まず何と言っても指揮者が若い、ということ。今年の指揮はグスターボ・ドゥダメル氏ですが、1981年生まれですので、まだ35歳ですか。しかも国籍はベネズエラというのも珍しいと思います。

若い指揮者の良いところは、まず演奏が派手になりがちだという事。曲によっては老練で繊細な色気のある演奏の方が良いのですが、なにしろニューイヤーコンサートはお祭りです。楽しく明るくが基本ですから、この「若さ」は間違いなくプラスに働く筈。実際、今年の演奏はときに荒々しく、実に元気の良いものになっていました。

また、若い指揮者は選曲が自由です。保守的な指揮者の年は、延々と似たような調子のポルカを連打されてうんざりすることもあるのですが、今年のニューイヤー・コンサートは、ポルカに胸焼けを起こす事がありませんでした。飽きさせない選曲と曲順の構成は、コンサート全体の緊張感を保ち、聞く側を疲れさせません。御陰で、今年のニューイヤーは時間が経つのが早過ぎると感じた程でした。そんなわけで、聞き終えたその場でCDを予約してしまったのです。

そして昨日、そのCDが届いた訳ですが、まず一曲目の「ネヒレディル行進曲」で驚かされました。発売元がSONYになってからの音質は正直全く好みではなかったので、正直音質にはこれっぽっちも期待していなかったのですが・・・なんですか、今年のニューイヤーはCDの音質までひと味違っているような。

地デジでこの一曲目を聞いたときの感想は、「薄い」「粗い」というものでした。ストリングスの艶がですね、全然伝わって来ないのです。そのくせアクセントはやたら強いし、音の強いところはまとまりがいまいちだしで、聞きはじめの印象は正直なところいまひとつだったのですよね。「あー若いなぁ」と、そんな印象で。

ところがです。CDで改めて聴いてみると、これが実に力強いのです。薄いなんてとんでもない、「荒い」ところはあっても「粗く」はない。所詮地デジ音声はAACってことなんでしょうね。そしてこの曲は運の悪い事に、AACで失われてしまう部分にこそ「美味さ」が載っていたと、そういう事なのでしょう。艶やかで力強いストリングスの奏でるマーチに、いやが上にも気持ちは昂ります。まさにお祭りの一曲目、という作品でした。

次にお勧めなのが6曲目、「ヴェネチアの一夜」より、ポルカ・シェネル。典型的なシュトラウス節のポルカなのですが、それでいて「あぁまたこれか」というくどさを感じさせないアレンジ感が魅力的な作品です。そして、その作品を大いに盛り上げる起伏豊かな演奏がまた、実に心地良いのですね。私は近頃は「ポルカ・シェネル」と言われるだけで興味を失っていたのですが、この作品は本当に別格で、大いに楽しく聴かせて頂きました。

7曲目のスッペ作「スペードの女王」序曲も、ニューイヤーコンサートでは珍しいタイプの曲でしょう。まるで月明かりの回廊を忍び足で進んで行くかのような雰囲気の序盤から、少し怪しげな感じの前半。このあたりは、ニューイヤーコンサートらしからぬ雰囲気なのですが、曲も半分を過ぎたところから一気に勢いを増し、逆に「ニューイヤーコンサートらしい」雰囲気に。

終わってみればこの一曲が、コンサート第二部の序曲としての機能をしっかりと果たしているのです。この選曲が上手いというか、ニクいというか。この曲は初演奏らしいので、純粋にこの指揮者のセンスが輝いたポイントであるとも言えますね。

9曲目のニコライ作「月の出の合唱」もまた、意外性に富んだ選曲でした。よもやこんな厳かな合唱を、ニューイヤーで聴く事になろうとは。しかし、その奇抜さが全く嫌味なく、続く「らしい」曲達を引き立てる役割を果たしているのです。御陰で最後まで飽きさせられる事なく、常に新鮮な気持ちでコンサートを聴き終える事ができました。

というわけで、今年のニューイヤーコンサートは、曲よし、演奏よし、CD音質も良しという訳で「買い」だと思います。まぁクラシックファンの皆さんは、そんな事を言われるまでもなく、とっくにCDなりBDなりをお持ちなのでしょうけれど。

それにしてもつくづく思うのは、地デジの音質は、もうちょっと何とかならないのかなぁということですね。AACのスカスカ音質でも楽しめるには違いないのですが、せめてこのCD音質で聴くことが出来たならと、思わずには居られないのです。それが素晴らしい、楽しいコンサートであればこそ。

THE RUMPROLLER

今日の東京は、晴れ2割曇り8割という感じの、なんともハッキリとしない天気でした。気温の方も昨日に引き続き4月並みだったようで、長袖でないと寒いくらいでしたね。まったく、5月から7月の陽気だったというのに、6月に入った途端4月の陽気とか、一体どうなっているのでしょう。まぁ愚痴ったところで始まらない事ではありますけれど。

天気の方がそんな有様でしたから、今日は歯医者に行った以外、これといって何もない一日でした。一応野川へは行ったのですけれど、何しろ天気が天気でしたし、これといって珍しいものも見ませんでしたし。強いて何かした事を挙げるとするならば、帰りにダイソーで細々と仕入れて、部屋を少し整理したり服を修理したりしたことくらいでしょうか。

そんなわけでこれといって書く事もなく、どうしたものかと考えていたところ、ふとレコードプレーヤが目に留まりました。そういえば、ここ二ヶ月ほど音楽を聴いていませんでしたね。なにかと精神的にも体力的にもギリギリの毎日だったので、すっかりご無沙汰になってしまっていました。

音楽自体は大好きなのですけれど、音楽を聴くと体力を消耗するので、バテていると駄目なのですよね。最近はテレビの音も辛いので、人工的な音のある場所からは、逃げるようにしていたくらいです。でも、今日は何もしませんでしたし、体力は余裕。ならば久々に一枚聴いてみようという訳で、このアルバムをかけてみました。


The Rumproller
タイトル  :THE RUMPROLLER
アーティスト:LEE MORGAN

レコードを取り出してみてまず思うのは、収録時間が短いな、ということ。大抵のLPはかなり内側まで溝を切ってあるものですが、このアルバムは両面とも1/3くらいは盤面を余らせています。収録曲数はA面が2曲、B面が3曲。A面の2曲は少々長めなので、時間が半端になってしまったのかも知れませんね。

一曲目は表題曲の「THE RUMPROLLER」。速歩きくらいのペースで淡々と刻む煌びやかなピアノの伴奏の上で、トランペットが奔放に動き回るタイプの曲です。序盤はちょっと「ちょい悪(死語)」という雰囲気がありますが、それ以外の部分はむしろ明るめのお洒落な感じとでも言いましょうか。市内循環バスのようなペースの遅い乗り物に乗って、賑わう市内をずっと眺めているようなイメージの曲です。

ただ、曲が始まってまず感じるのは違和感でした。これまで聴いて来たリー・モーガンの作品はどれも音が非常に伸びていて力強く、一切迷いなしに突っ走っているような若々しい印象だったのですけれど、この作品ではそんな慣れ親しんだモーガンの音が鳴りを潜めています。リズムもなんというか、「スパッ」とジャストなタイミングにこないことがままあり、どことなく煮え切らないのですよね。

何度も聴いていると慣れてしまうので次第に違和感を感じなくなりますが、例えば「CANDY」を聴いた後でこのアルバムを聴いたなら、その印象のあまりの違いに驚かれるに違いありません。そのくらい音に勢いがないというか、何かを確認しながら微調整を繰り返しているかのような印象を受ける音でした。

二曲目の「DESERT MOONLIGHT」はそのタイトルから連想される通り、ややオリエンタルな雰囲気の漂うメインテーマが印象的な曲です。序盤は静かに控えめに、深夜の静けさを思わせるような感じで。強弱の差の大きな曲ですが、弱いところの音が、やはりなんというか落ち着きません。しかし展開していつものジャズ風味のフレーズが表れると、音が安定して聴き易くなります。

ところで、この哀愁漂うメインテーマの部分は、なんと日本人の作った童謡なのだそうです。作詞は加藤まさを氏、作曲は佐々木すぐる氏で、大正期の作品なのだとか。これをリー・モーガンがジャズ化した訳ですが、何故かクレジットは彼のものになっていますね。一体どういう経緯で彼がこの曲を知ったのか、そのあたりのエピソードが気になるところです。

B面一曲目は「ECLIPSO」。ソシアルダンスに使えそうな、明るくリズミカルな一曲です。この南米風のリズムはサンバでしょうか。忙しく動き回る主旋律の熱気は、明るく乾いた景色を連想させます。日干し煉瓦やサボテン、コバルトブルーの明るい空が似合いそうな作品でした。この曲は、リー・モーガンのオリジナルのようですね。

続く「EDDA」は躍動感溢れるアップテンポな一曲。テンポはかなり速い作品ですが、疾走感ではなく躍動感になっているのは、三拍子の御陰でしょう。ゆらりゆらりという三拍子独特のリズム感が、ジャズ独特のスウィングによってさらに強化され、心地良い踏み込みの加速感を与えてくれます。この曲はピアノが都会的な雰囲気を醸し出していますね。近代的な都会の風景(但しアメリカの)が似合いそうです。

最後は「THE LADY」。甲高いミュートトランペットの音色で始まりますが、これがなかなか良い音色で。優しく穏やかに、それでいて芯のある演奏になっていて、これまでのどこか戸惑ったような音色とはひと味違います。曲はタイトルからも連想される通りのスローなバラードで、例によって灯りを落とした部屋や、高層階から見下ろす夜景が似合いそうな雰囲気。ゆったりと寛ぎつつ聴きたい一曲です。

全体を通して聴いてみると、A面よりもB面の方が印象が良いですね。メロディ等々はどの曲も素晴らしいので、この当初のモーガンとはだいぶ違う音色さえ気にならなければ、かなりお勧めできる一枚だと思います。実は私はこの音色がかなり気になってしまって、買った当初は最後まで聴く事ができずにA面の途中で止めてしまったのですけど。ただ、改めて聴いてみると、そんなに酷評するほどには悪くないと思うのです。

やはり先入観付きで聴く場合と、ある程度それがリセットされた後で聴く場合とでは、印象が大きく異なるものですね。これまでも何枚かこういうイメージの変化を経験したアルバムはありましたが、そんなアルバムがまた一枚増えました。やはり今でもA面の音は気になってしまいますが、それでもたまに聴いても良いかなと思うくらいに、曲が良いアルバムだと思います。

MISTRAL

自室のレコード置き場はそろそろレコードで一杯になりそうなのですが、その割に音楽の話はあまり書いていませんでしたね。写真はどんどん貯まる関係で、何かと鮮度が重要なので、どうしてもその他の話題は後回しになりがちです。というわけで、今晩はまた少しレコードのお話を。今日ご紹介するのはこちらのアルバム。購入したのは確か昨年の秋頃だったかと思いますが、今でも時折引っ張り出して聴いている一枚です。

ミストラル(紙ジャケット仕様)
タイトル  :MISTRAL
アーティスト:Freddie Hubbard

一曲目の「SUNSHINE LADY」は、穏やかな波の音が似合いそうな、ゆったりめのテンポの一曲。南国のビーチという感じがしますね。レコードの解説に「ナウなフュージョンタッチ」とあるように、シンンセてんこ盛りでポップなメロディを中心に組み上げられたこの一曲は、間違いなくフュージョンです。それにしても「ナウな」とはまた、時代を感じさせてくれる解説ですね。当時はこれが格好良いと思われていたのでしょうけれど。

二曲目は「ECLIPSE」。序盤は幻想的で、絵を合わせるなら深夜の都市のまばらな灯りが似合いそうです。長めのイントロが終わって暖かみのある主旋律が現れると、曲はしばしの静止の後、ゆったりとしたペースの移動感を感じさせるようになります。まるで夜の街をゆっくり歩いているかのような雰囲気の曲でした。この曲は、フュージョンよりもジャズに近い印象ですね。

三曲目は再びフュージョン全開の「BLUE NIGHTS」。タイトル通り、夜の街を走る自動車の、フロントガラス越しの景色が似合いそうな雰囲気の曲です。テンポはややゆったりめで、少しミステリアスな雰囲気が混じるのが良いですね。とても近代的な感じで、主旋律をEWIに置き換えたらT-SQUAREだと言われても信じそうな曲でした。

B面一曲目は「NOW I'VE FOUND LOVE」。歌詞のつきそうなとりわけハッキリとした主旋律のある曲で、雰囲気を喩えるなら、穏やかに晴れた青空と、遥か頭上をゆっくり流れる白い雲という感じ。爽やかではあるのですが、夏的な爽快感とはちょっと違いますね。季節に喩えるならむしろ春か秋の、暖かい日差しのような。柔らかく朗らかながら、同時に少し遠い感じのする曲です。この作品もフュージョン色全開でした。

続く「I LOVE YOU」は転じて実にジャズっぽい一曲、というかジャズですね。アルバムの曲のほとんどはフレディか他の参加者のオリジナルなのですが、なんでもこの曲だけはいわゆるスタンダードナンバーなのだそうで。フュージョン調の曲を続けて聴いた後でこの曲が現れると、フュージョンとジャズの違いが非常に良く分かりますね。そして私はどちらかというと、ジャズの方が飽きずに聴けるタイプのようです。

トリは「BRING IT BACK HOME」。ゲームならカジノのカードゲームに使われそうな感じの、ピアノパートがちょっとかっこいい一曲です。スポーツニュースなら、試合結果一覧のBGMにも使えそうですね。曲調はフュージョンですが、シンセの参加はありません。フュージョンっぽさの大半は、やたらと細かく動くエレキベースと、フュージョンならではのこのリズムが作っているようです。

フレディ・ハーバードのアルバムなので、てっきりジャズだとばかり思って買って来たのですが、のっけからフュージョン色全開だったのには驚かされました。アルバム中三曲はフレディのオリジナルですが、どれも曲調はフュージョンです。彼とフュージョンの組み合わせは意外ではありましたが、しかし聴いてみるとこれがなかなか悪くありませんでした。

中でもお気に入りなのが、B面の一曲目。ラストの「BRING IT BACK HOME」もとても良かったですね。A面でも好きなのは二曲目なので、要するに私はフレディのメロディが好きなのでしょう。個人的にお勧めなのはB面ですが、A面の曲もまたどれも聴き易い曲ばかり。爽やかな曲が多く、古臭さも感じないので、ジャズやフュージョンにあまり馴染みのない方でも大丈夫でしょう。休日のBGMにお勧めしたいアルバムでした。

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