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日々の便り

 

三四郎

昨日は眠気に負けて早々に寝てしまったのですが、本当は漱石の作品について感想を書くつもりだったのです。ただ、部屋に戻るなり襲ってきた強烈な眠気に為す術もなく。タップリ寝た後なので今日こそはと言いたいところなのですが、どういうわけか今日も眠くて仕方ありません。

しかし、こういうのは読み終えたタイミングで書くのが一番ですからね。読み終えてあまり日が経つと、粗筋はともかく感想の方は次第に薄れてしまうため、書くに書けなくなってしまうのです。短編ならばその場で読み返せば良いのですが、さすがにこのボリュームはそうもいきません。そいうわけで、今日はちょっと頑張ってみようと思います。

○三四郎
著者:夏目漱石
初出:1908年(朝日新聞)
http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card794.html
※リンクは青空文庫です

田舎から出てきた三四郎という名の若者の東京での日々と、ひどく消極的な恋の物語。なにしろこの主人公の三四郎という青年、とにかく消極的で度胸がないのです。何かというと一歩を踏み出せない、ひと事を言えない。それでいて頭の中ではぐるぐると人一倍考えてしまうものだから、彼一人では物語など前に進もう筈もありません。

それでもこのお話がお話として成立し得るのは、彼の代りに周囲の人間が状況を動かしてくれるからです。主にその役割を与えられているのが、悪友としか言いようのない友人の与次郎、主人公を振り回すヒロインの美穪子。この二人のどちらかが主人公の傍らにいるとき物語が動くと言っても、過言ではないでしょう。

物語は、主人公が東京へと向かう列車の車中から始まります。序盤はまず登場人物の顔見せから。広田先生、野々宮さん、美穪子、与次郎、よし子の順に出会って行くのですが、重要人物である広田先生と美穪子はまだ名前が明かされません。

主人公は名も知らぬ広田先生に感化されたり美穪子に一目惚れしたりしつつ、東京の日々を過ごします。彼等とは再会する事もあるのですが、気になっているくせに声もかけられず、名前も聞けず。主人公の消極的な性格が、この二人の重要人物を謎のままにしてしまいます。そして、そんな主人公と二人を結びつける役割を果たすのが、些か活動的過ぎる友人ないし悪友の、与次郎でした。

広田先生の引っ越しという出来事を通じて、三四郎は改めてこの二人と知り合います。とはいえ消極的ですから、自分から美穪子になにかアプローチをするということはありません。そもそも美穪子は野々宮さんと何か関係のある人物のようで、主人公は二人の仲を疑っているのですが、それすら聞き出せないのです。

しかし一方で、美穪子は専ら心理的に、三四郎を引っ掻き回します。二人だけでエスケープしたり、謎めいた「迷子」という言葉で煙に巻いたり、迷い羊の絵葉書をよこしたり。そうして主人公が美穪子の事で一喜一憂している傍らで、与次郎は広田先生を大学教授にするための策略を着々と進めて行くのでした。

大きな変化はない日々の裏側で、しかし少しずつ事態は進行して行きます。一戸建てを引き払い、なぜか下宿暮らしに戻る野々宮さん。そんな彼に対する美穪子の態度は次第に露悪的になり、そのために三四郎を利用している節さえ見えるように。広田先生の美穪子評もあいまって、三四郎はますます美穪子の事が理解出来なくなってきます。

そして物語は、各々のエピソードの終幕へ。これまで何一つハッキリとした行動をとれなかった主人公は、美穪子に会いに行くのですが、美穪子はなぜか顔色が優れません。二人で歩きながら話すうち、とうとう彼は少しだけ本音を明かす事ができるのですが、そんな二人の会話は、美穪子を迎えにきたという見知らぬ男の登場で中断されてしまいます。

そしてもたらされる、美穪子とよし子の縁談の噂、さらにインフルエンザで倒れる主人公。見舞いにきた与次郎は三四郎に噂の真相を確認させるべく、一計を案じるのですが・・・続きは読んでのお楽しみ、ということで。しかし与次郎の企みって、多分これしか成功していないのでは。そうそう、広田先生の一件は大失敗で、先生と三四郎に大迷惑をかけてしまうのでした。

さて、漱石はこの小説を書き始めるにあたり、予告の中で次のように述べています。
"たゞ尋常である、摩訶不思議は書けない。"-出典:「三四郎 予告」
http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/4682_9464.html

漱石曰く、設定された人物が人格通りに振る舞えば、そこに自然と物語が生まれると言うのです。この物語は意図された突飛な事件のために人物が配置されているのではなく、人物を描いた結果生まれる物語である、というわけですね。これは、漱石のほぼ全ての作品に共通している信念のようなものです。

ですからこの物語でも、大抵の小説にあるような事件はなにひとつ起こりません。むしろ、漱石の作品の中でも事件の少ない方ではないでしょうか。そのため物語には、強烈に印象に残る出来事などというものはありません。それでいて個々の人物像や、折々の言葉は印象に残るのですよね。その中でも代表的な言葉が"stray sheep"でしょう。

当時中学生だった私が「三四郎」を知ったのは、何がきっかけだったでしょう。確かに読んだ覚えはあるのに、その印象は非常にうすぼんやりとしていて、どんな話だったかは読み始めるまで思い出せませんでした。
それでいて、美穪子の謎めいた仄暗い印象と"stray sheep"という言葉だけは、非常に印象に残っていたものです。

しかし、今回読み返してみて、むしろ印象に残ったのは広田先生と与次郎のコンビでした。いや、本当に魅力的な人物ですね、この二人は。なんでも与次郎はあの鈴木三重吉がモデルだという事なのですが、どうなのでしょう、書簡に見える鈴木三重吉はもっと繊細な人物だったように思えるのですが。

しかし、先生に対する与次郎の態度は確かに漱石と三重吉のそれに近いものです。また、「先生何々をお買いなさい」と言い出して勝手に買って来る辺りや値切り上手な辺りは、その他の作品に垣間見る三重吉の姿そのもので、そう言われるとそうなのかなという気もしますね。

まぁいずれにせよ、この作品もまた子供に読ませるものではないと思います。不適切というのではなく、多分読んでも分かりません。

かつての私が美穪子にしか反応出来なかったように、人生経験のない子供と色々辛苦をなめてきた大人では、自ずと着眼点が違って来るものです。それに、人知れず心の中で右往左往する迷子達の気持ちや事情など、子供に察しろというのは無理な相談でしょう。

一見して昭和の青春物語に通じるところもある本作ですが、これこそ、精神的に成熟し人と社会を知ったものでなければ分からない、大人のための小説と言うべきものだと思います。

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