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TU-H82とTU-877の聴き比べ

オーディオ、特に真空管は時間が経つに連れて音が変わるものです。私の経験では、組み立てたばかりの回路は概ね刺々しいか、逆に極端に濁っているかのどちらかですね。真空管の場合、刺々しいことが多いような気がします。実際このキットも、電源を入れた直後の印象は「やかましい」でした。

しかし、大きめのボリュームでドヴォルザークを流し続ける事4時間、部屋に戻って聴いてみると、どうやら最初のとっ散らかったようなやかましさはなくなって、良い感じにまとまってきたようです。4時間程度ではエージングのうちにも入りませんが、しかしまぁ、ファーストインプレッションを語るならこのあたりで良いでしょう。というわけで、あれこれ聴いてみた印象を書いて行こうと思います。


○ドヴォルザーク交響曲第9番(新世界から)ー 24bit/96kHz flac ハイレゾ音源
ドヴォルザーク:交響曲 第6番&第9番[Blu-ray Audio]

とてもクリアでハキハキとした演奏に聞こえます。TU-877と比べると、ヴェールが一枚剥がれたかのような印象ですね。分解能もこちらの方が優れており、豊かな残響があるにも関わらず、個々の音をハッキリと聴く事ができます。
低音の迫力もTU-877よりだいぶ優れており、フォルテの躍動感とスピード感はさすがデジタル、といったところ。第四楽章の冒頭のあの有名なフレーズなど、迫力満点に聴かせてくれます。

ステレオ感も、TU-H82が勝っているようです。初段の仕組みは同じなのですが、さすがに左右共通電源の真空管アンプでは、D級アンプのクロストークには勝てないということでしょうか。よく言われる「原音に忠実」という面では、恐らくTU-H82の方がだいぶ勝っているのではないか、と思います。

一方で高音部がだいぶ強いのか、金管楽器がやや耳に刺さるような感じでした。ストリングスや木管楽器はハキハキとする代わりに艶が落ちたような印象です。TU-877は逆に、木管とストリングスを非常に色っぽく艶やかに聴かせてくれるので、木管や弦楽器が主役を張るところでは、どうも少し物足りないような印象を受けました。特に、大好きな第二楽章が、なんだかこう、色気不足と言いますか。


○Art Blakey & The Jazz Messengers A Night In Tunisia ー 24bit/192kHz flac ハイレゾ音源
Night in Tunisia

TU-H82はキレの求められるジャンルおよび楽曲が得意のようで、とても心地良く聴かせてくれます。ハイハットがキツくなるかと思いきや、スピード感は保ちつつ、案外まろやかで聴き易い音でした。TU-877で聴いた場合のこの音源は、やや音の太さに欠ける迫力不足な印象でしたが、TU-H82で聴く分には、そういった印象はありません。スッキリと見通しが良く、それでいて迫力も充分で、ハイレゾ音源の面目躍如といった感じです。

それともうひとつ、不思議な事にTU-877よりもだいぶ音量を上げることができました。TU-877だと音が歪み始める音量に達しても、TU-H82では全くそういったことがありません。どうやらTU-877は、出力に幾つかピークがあるようですね。それがあの独特の艶を作っており、同時に、ある程度以上の音量になると歪みの元になるのでしょう。

低音は、量感ではTU-877が圧倒的に勝るのですが、同時に非常にルーズでブーミーに聞こえます。こうして比べてみると、TU-H82の音がいかに引き締まっているのかということが良く分かります。この音源の再生では、TU-H82の圧勝と言って良いでしょう。


○エディ・ヒギンズ・トリオ Autumn Leaves ー 24bit/96kHz flac ハイレゾ音源

魅惑のとりこ

TU-H82はTU-877と比べてスピード感に勝るためか、ピアノのピアノらしさがより出ているように感じます。特に音色の透明感では、TU-H82が勝っていますね。ドヴォルザークを聴いた時と同じく、ヴェールが一枚剥がれたような感じで、ピアノが数m自分に近付いたような印象です。高温の鋭さも意外と気にならず、心地良い音です。

あえて弱点を挙げるならば弱音に弱いと言いますか、弱い音で弾くところでやや音が引っ込むので、透明感があるのに何かこう、輝きの足りない音に聞こえてしまう気がします。気になるのはそのくらいで、あとはパーフェクトでした。音量を上げても破綻しないのは相変わらず。TU-877と比べると、TU-H82は歪みませんねぇ。


○BUMP OF CHICKEN firefly ー 16bit/41kHz alac
firefly

TU-H82で聴くとギターの印象が鋭くなり、イントロのギターがザクザクと小気味よく聞こえます。ただ意外な事に、ボーカルはやや引っ込み気味。また、真空管以上に16bit 44.1kHzのダイナミックレンジの狭さ、音の粗さを感じてしまいます。TU-H82は善くも悪くも、ソースを素直に出すということなのでしょう。

その点、TU-877は全体にヴェールをかけて音を纏めてしまう傾向があるため、伴奏とボーカルのバランスはむしろ良好です。TU-H82ほどの透明感は出せない代わりに、ボーカルの力強さはこちらが上。ソースの粗さも音の曇りが上手い事隠してくれるので、CD音源の「ス」の入った音があまり気になりません。


○森山良子 家族写真 ー 16bit/44.1kHz alac



この曲は、TU-877の独壇場ですね。真空管アンプはピアノやボーカルのアタックを丸めてくれること、中音域の艶に優れることから、森山さんの声とは非常に相性が良いのです。特にこの曲は、何度聴いてもぐっと来ますね。暖かい、柔らかい、そして力強いのに限りなく優しい。この独特の生々しさは、ソースに忠実ではない、ところどころ強調があるからこその良さなのでしょう。

一方TU-H82はといいますと、ピアノの透明感は増す一方で、ボーカルの方は少し熱量を失った感じに。音の滑らかさという意味でも、やはり音源側のアラが聞こえる気がします。誤摩化しのない、素性の良さが逆に災いしている格好ですね。また、ボーカルのサ行やカ行のアタックがやや気になる気がします。


○秦基博 SEA ー 16bit/44.1kHz alac


同じくJPOPながら、この曲はTU-H82の方がかなり良い感じに聴こえます。そもそも透明感を強調した、早朝の海風を思わせる曲調であること、伴奏の主役がギターであるということが影響しているのかも知れません。あとは、秦さんの声質ですね。彼の声は中域より高域を強調すると良いようで、TU-877で聴いた場合よりもだいぶ爽やかに感じます。

また、TU-H82は個々の音をきれいに分解して聴かせてくれるため、コーラス部分の聴こえ方が奇麗なのも良いところ。アルバム「ひとみみぼれ」に含まれる他の曲も比較してみましたが、どの曲でも同様に、TU-H82の方がきれいに聴こえました。


○The Subways Move To Newlyn ー 16bit/44.1kHz alac


この曲も、TU-H82の方が良い感じに聴こえます。特に、個々の声をきれいに分離して聴かせてくれるため、コーラスパートが奇麗。一枚ヴェールの剥がれた音質も、ガレージロック独特のややノスタルジックでいて、同時に透明感もある音作りと相性が良いようです。ただ、CD独特のスカスカ感が聴こえてしまうのは、もうどうにも避けようがないようですね。

一方TU-877の場合、メインボーカルの男声に力強さが付加され、骨太な印象になります。コーラスも重みのようなものが出て迫力はあるのですが、ややごちゃついたような感じに。バッキングが分厚くなるところでは、特にごちゃごちゃした感じが強くなってしまうようです。全体的にヴェールがかかる分、音源のアラは気にならないのですが。


○Be.  Aqua ー 16bit/44.1kHz alac
Tones

最後はインスト系をひとつ。このアーティストはご存じない方も多そうなので、一応解説しておきますと、アコースティックギターのデュオです。基本的にギター二本のみ、場合によってシンセパッドとベースがバックに入る程度といった構成の曲が多いグループですね。この作品は、2013年のアルバム「Tones」の一曲目です。
同様のグループでDEPAPEPEは有名ですが、あちらは演奏が荒いので、私としてはBe.の方がよほど好みなのですけれど、以来アルバムが発表されていないのですよね。検索にもかかりませんし、解散してしまったのでしょうか。

それはともかく聴き比べですが、この曲については両者一長一短といった感じです。TU-H82の方が透明感が増す事、音の分解が良くなる事から、曲の爽やかさはTU-H82の方がより良く感じます。一方で、やはり中域の痩せと、音源のアラがでるところは避け難く、そこをカバーしてくれる分TU-877の方が耳に優しい音になる訳で。音の表情についてはどちらも実に良く聴かせてくれるので、甲乙つけ難いところ。この曲は、両者引き分けというところでしょうか。


○まとめ
TU-H82出力段がD級であるため、音は非常にスピード感のある、キレの良い音になっています。これが、全段真空管との一番の違いですね。特に低音の引き締まり方はTU-877ではまるで勝負になりません。量感も充分にあり、ずしんと腹に響く低重心な音作りです。この事が、ジャズやロックなどといった、キレが重視される音楽ではとても有利に働きます。また、恐らく解像度が高いのでしょう、バッキングやコーラスがダマにならないため、音を幾重にも重ねるような演出でもTU-H82は威力を発揮していました。

デジタルというとザラついた音をイメージしてしまいがちですが、このアンプの場合はデジタル臭いザラつきをほとんど感じませんでした。滑らかであり、同時にとても反応の速い素直なアンプだと思います。ただ、音を誤摩化さない素性の良さは、ときとしてマイナス方向にも働きます。特に、解像度が荒いCD音源の場合は、TU-877と比べてCD臭さが強調されるように感じました。

どちらがピュアな音かと言われれば、TU-H82の方が「作ったところ」のない、ピュアな音なのではないかと思います。音量をどんどん上げて行っても破綻しないのは、その何よりの証拠でしょう。TU-877は小音量方向には強いのですが、ある程度音を大きくすると、潰れる音や歪む音が出始めるので。もっとも、そんな音量で聴いたら近所迷惑になるので、まず使わない音量なのですが。

一方、どちらが心地良い音かと言われると、これは難しいところです。ピュアな音を好むのであれば、TU-H82を、柔らかで聞き疲れしない音を好むのならTU-877をはじめとした、A級シングル真空管アンプをお勧めしたいところですね。それにしても、TU-870の時もTU-877の時も似たような事を言った気がしますが、この値段でこの音というのは驚きです。そこらのスタイルばかりのミニコンポなど買うくらいなら、TU-H82をPCに繋いだ方が良いのかも知れません。



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